1. 介護職員処遇改善加算とは?

介護現場の人材確保が難しくなる中、国は介護職員の 賃金改善 を目的として「介護職員処遇改善加算(以下:処遇改善加算)」を設けています。
この加算は、介護保険サービス事業者が取得することで、介護職員の給与に充てる財源が上乗せされる仕組みです。

●背景(厚生労働省データより)

厚生労働省の公表資料によると、介護職員の給与は全産業平均と比較して依然として低い状況にあり、処遇改善加算導入後も継続的な改善が必要とされています。
出典:厚生労働省「介護人材の処遇改善について」
出典:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000191829.html

国はこの課題に対応するため、2012年に処遇改善加算を開始。2021年には「特定処遇改善加算」、2022年には「ベースアップ等支援加算」も追加され、複数の加算体系で賃金改善を後押ししています。

2. どれくらい給与が上がる?加算のしくみ

処遇改善加算は 加算率(%) に応じて、介護報酬に上乗せされます。取得した加算額の 全額を介護職員の処遇改善に充てることが義務 です。

●主な加算区分(厚労省:処遇改善加算の概要より)

出典: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kaigo_kaizen.html

各サービスにより細かく異なりますが、おもな加算率は以下の通り。

加算Ⅰ:約13.7%

加算Ⅱ:約10.0%

加算Ⅲ:約5.5%

加算Ⅳ・Ⅴ:加算率が低いため取得事業所は少ない

さらに、下記2種類があります。

特定処遇改善加算(経験・技能のある介護職への重点配分)

ベースアップ等支援加算(全職種を対象に月3,000円程度の改善を想定)

●実際の給与イメージ

例えば月額介護報酬50万円の利用者が10名いる事業所(合計500万円)で 加算Ⅰ(13.7%) を取得した場合:

→ 500万円 × 13.7% = 68万5,000円/月
→ 年間だと 822万円 が処遇改善として介護職員の給与改善に使用できる計算です。

3. 処遇改善加算の取得要件

処遇改善加算を取得するには、事業所側が以下を満たす必要があります。

(1)キャリアパス要件

厚労省「キャリアパスの要件について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000192021.html

加算区分に応じて以下の条件があります。

●要件Ⅰ:職位・職責・任用要件の整備

介護職員のキャリアパス(役職・職務・処遇)を明確化すること

例えば「一般介護職 → サブリーダー → リーダー → 管理者」など

●要件Ⅱ:資質向上の仕組み

研修計画を整備し、スキルアップの機会を提供すること

●要件Ⅲ:給与等の改善ルールの整備

処遇改善に関して文書でルール化し職員に周知すること

(2)職場環境等要件

例えば以下の取り組みが求められます:

ICT導入による業務効率化

新人研修やOJT体制の強化

休暇制度の改善

両立支援制度の充実

メンタルヘルス対策の実施 など

4. 申請の流れ(介護事業所が行う手順)

申請手続きは 年1回 の計画書提出と、年度末の実績報告が基本です。
厚労省資料:
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000191829_00002.html

① 計画書の作成

処遇改善加算を取得する事業所は、毎年度「処遇改善計画書」を作成します。

主な内容:

加算区分の選択(Ⅰ〜Ⅴ)

特定処遇改善加算の配分ルール

職場環境改善計画

賃金改善方法(手当増額・基本給の引き上げ・賞与増額など)

② 提出先(自治体)へ提出

介護保険課など、自治体が指定する窓口へ提出します。

③ 実施

計画に従って賃金改善を行います。
加算取得後は、職員への配分状況が分かるよう 給与明細の記載 や 周知文書 の整備が必要です。

④ 実績報告書の提出

年度末に、実際に処遇改善に充てた金額を報告します。
計画より使途が不足している場合、返還が必要になることもあります。

5. 介護職員にどう反映される?給与UPの仕組み

処遇改善加算は 必ず賃金に反映しなければならない ため、介護職員に直接メリットがあります。

●よくある反映方法

基本給の引き上げ

処遇改善手当として毎月支給

一時金として年1〜2回支給

賞与額の増額

夜勤手当や資格手当を増額

●特定処遇改善加算の特徴

経験10年以上の介護福祉士など、「経験・技能のある介護職」に手厚く配分することが義務づけられています。

●医師・看護師への影響

介護職支援の加算とはいえ、下記のように他職種にも良い影響があります。

介護職の定着が進み、看護師・医師の業務負担が軽減

多職種連携が円滑になり、安全なケア体制が維持

施設全体の離職率が低下し、安定したケア提供が可能

6. 事業所が取り組むべきポイント

加算を最大限活かすためには、以下が重要です。

(1)透明性のある配分ルール

職員への説明が不足すると不信感につながります。
・配分比率
・支給方法
・支給時期
を明確にしておくことが大切です。

(2)キャリアパス制度の整備

キャリアパスの仕組みは加算取得の条件でもあり、職員のモチベーション向上にもつながります。

(3)職場環境の改善

厚労省のガイドラインでは、以下の改善項目が推奨されています:

ICT導入で記録業務を効率化

新人研修の充実

メンタルヘルス対策

管理者研修の実施

有給休暇取得率の向上

7. まとめ

介護職員処遇改善加算は、介護職員の 給与を上げるための国の制度 であり、事業所にとっても人材確保や職場環境改善に直結する非常に重要な仕組みです。

ポイントは以下の通り。

介護報酬に最大13%以上が上乗せされる制度

取得した加算は全額、介護職員の処遇改善に充当

キャリアパス要件・職場環境整備が必要

年度ごとに計画書と実績報告書の提出が必須

給与UPだけではなく、事業所全体の定着率向上にも効果あり

介護・看護・医療の現場で働く皆さんが、より安心して長く働ける職場づくりのためにも、処遇改善加算の理解と正しい運用が欠かせません。